前に立つときのテンションの話

音楽の時間を進めるあいだ、私たちミュージックファシリテーターは常に参加者のみなさまから見える位置にいる。いわゆる「人前に立つ」という状態だ。

介護事業所では、音楽・体操・その他色々な方が外部から来て「人前に立って」いる。あるいは、事業所のスタッフの方々が体操やレクリエーションの時間を担当し、そういった状況になることも多いだろう。

「人前に立つ」という状況は、人を緊張させたり、時に演じさせたりすることがあると感じている。
人前に立つだけの姿勢、表情、声量、キャラクター…そういったことに理想を持っている人もいると思う。

「ローですね」
私が参加者様の前に立つときの様子に関して現場のスタッフ様からいただいたことのあるコメントはこんな感じだ。

「他にも演奏の方とか来てくださるんですけど、そういう人たちと比べて構えてないですね」
「みなさんを引っ張る感じがないので、最初はちょっと物足りないかなぁと思いました」
「なんていうか、始まりのテンションがローですね」

これだけ読むと、褒められてるようにもお叱りをいただいているようにも見える…

セッションを始める時点で、(盛り上がることが全てとは思っていないものの)楽しい歌や元気な歌では思いっきり盛り上がれたらいいな、と思っている。
そんな気持ちで、さあこれから歌ったり体を動かしたりしますよ〜というタイミング。しかし私のテンションは「ロー」。

その理由は、以前担当していたグループホームでの経験にある。

「元気に挨拶しないでください」
子どものときや、飲食店でホールのバイトを始めたときは、「元気に挨拶してください」と教わった。そのときは確かに「元気に」が正義だった。

しかしあるグループホームで、まったく逆のことを言われた。

「柴田さん、元気に挨拶しないでください」

えっ。
まさか元気に挨拶してはいけない日が来るとは思わなかった。

「外からいきなり『こんにちは!』と人が入って来るとびっくりしてしまう方がいるんです。本当は歌が大好きで、音楽に参加したい気持ちはあります。しかしびっくりすると、混乱されて参加が難しくなってしまいます。だから静かに入ってきていただいて、スーッと始めていただくのがいいと思います」

なるほど。実際にやってみた。

(主にスタッフ様に向けて静かめに)こんにちは、お邪魔します。今日もよろしくお願いします。
(まず参加者様の視界に入って、目があったら)あ、◯◯さん、こんにちは。歌でも歌おうかな、と思って伺ったんですけれど…ここにピアノ置かせていただいてもよろしいですか?あ、ありがとうございます。
(小さいボリュームでピアノを弾き始めると、一人また一人と集まり、歌う方も出てくる。少しずつボリュームを上げていき、全員そろったところでおもむろに最初の曲の前奏を弾いて始める)

こんな感じにしたら、話に挙がった方ともそれなりに早い段階で打ち解けることができた。もちろんそうしなかった場合との比較はできないが、私自身このやり方にしっくり来た。

適度に「ロー」でありつづけて
介護事業所にいらっしゃる方々の多くが、体が思うように動かないもどかしさや悔しさを感じていたり、認知症があって不安をお持ちだったりする。
そこに、(ちょっと無理して)元気いっぱい!という人が来たら、気持ちがついていけないんじゃないかと思うようになった。

もちろん中には、元気な先生を求めている方もいらっしゃるだろう。
また、前に立つ人が元々持っている個性・キャラクターが元気な雰囲気の場合、そこに元気をもらう人はたくさんいるはずだ。

しかし、私はそういうキャラではない。
声は低めだし、中学生の時点で「話し方が落ち着いている」と言われるし、「女子高生なのにキャピキャピ感がない」と評される思春期を過ごした。

そんな私が無理して元気キャラを演じる必要はないし、似合わない冗談を言う必要もない。
私は私のままで、つくらなくていい。

声が出づらくなったなぁ。昔はもっといい声だったのに。
自分はここにいてもいいのかな。
周りについていけなかったらどうしよう。
何か恥ずかしい思いをしたらどうしよう。
そんな風に思っている方々の居場所になりたい。
気づいたら少し声を出せていたとか、思っていたよりは声が出たかもしれないとか、気持ちが晴れたとか、安心していられるとか、そんな風に思える場をつくりたい。

そのためには落ち着いたトーンで始めて、参加者様の気持ちが盛り上がって来たら私も一緒に盛り上がればいいと思うようになった。
それが私の自然体であって、そんな素の私にご参加者も素を見せてくださるようになるのではと考えている。

「ロー」な私への評価
最初にご紹介したコメントには続きがあって、それぞれ次のとおり。

「他にも演奏の方とか来てくださるんですけど、そういう人たちと比べて構えてないですね。参加する側も構えなくていい感じが、いいですね」

「みなさんを引っ張る感じがないので、最初はちょっと物足りないかなぁと思いました。でもそういう方が強制感がなくていいっていう方もいますよね」

「なんていうか、始まりのテンションがローですね。認知症のある方、特に◯◯さんは方はいきなりテンション高く来られちゃうとついていけないんですけれど、今日はゆったりついていけて良かったです」

あなたにはあなたの、私には私の個性でつくれる場がある。
あなたはどんな場をつくりますか?
関連記事

0 Comments

Leave a comment